『東京大空襲―B29から見た三月十日の真実』を読む
著者・E.バートレット・カーは、朝鮮戦争にも従軍経験のある戦史家である。元軍人らしい緻密で正確な描写で、1945年3月10日の東京大空襲とそれに至るナパーム弾M-69や戦略爆撃機B-29の開発過程、爆撃作戦の立案と遂行という「報告書」を作成した。
M-69が如何に日本中を火炎地獄に陥れるのに効果的であるかの説明はもちろんのこと、この都市爆撃案を支持していたのが軍人ではなく、NDRC(国家防衛調査委員会)やCOA(作戦分析者委員会)の顧問等民間人であった、という事実に戦慄した。グアムの基地の病院に新鮮なミルクを提供するため乳牛数十頭を本土から運ぶとはさすが物量のアメリカ、等と感心しているどころではない。
訳者の計算によると、東京大空襲における「焼夷弾の雨」とは、36万1855発のナパームが325機のB-29から2時間15分に亘って降り注いだものだそうだ。一夜にして26万7171件の建物が焼失、100万8千人の家が奪われ、8万3793人が死亡、4万918人が負傷したことを思えば、2時間15分「も」なのか「たった」なのか、言葉を失う。合掌。